ビジネスマンではない父より息子への果てしない手紙

人生の荒波に乗り出した息子たちへ

言葉にできない

季節ごとの模様替えがあたりまえだった昔の家屋。
座敷がありまた庭があり。
夏には夏の、冬には冬の、正月には正月の、しつらえ。

四季を受け身で迎えるのでなく、生活の彩りとして取り込む工夫。
工夫が作法となり、作法が文化となる。
しきたりと言えば堅苦しくなるが、無頓着であってはならないとも思う。

 私たちの祖先はおそらく、効率的であるよりも、美しくあることを是とした。
日々の移ろいに滅びゆく命を重ね、それでもなお、凛とした姿であることを愛した。

 一期一会。

 古い建築や庭を見て歩くにつけ、茶道の文化がこれほどまでに深く根を下ろしているのかと驚く。
「ではその茶道でいう美の神髄とは?」
などと無粋な問いを発するなかれ。

 長い歳月をかけた努力と研鑽によってのみ習得できるそれを、わずかな言葉で表現できるはずがない。
言葉で説明できないという理由だけで全てを切り捨てる今の風潮は愚の骨頂。

 ほんとうに大切なものがお金では手に入らないのと同じように、言葉であらわすことができないものの中にこそ、失ってはならない真実がある。